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映画レビュー「アフター・ウェディング(After the Wedding)」

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記事初出:2007年05月14日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「After the Wedding」(2007、デンマーク)
監督:スザンネ・ビエール(しあわせな孤独)
脚本:スザンネ・ビエール、アナス・トーマス・イェンセン(しあわせな孤独、ミフネ)
製作:Sisse Graum Jソrgensen(しあわせな孤独、Brothers)
出演:マッツ・ミケルセン(007/カジノ・ロワイヤル、しあわせな孤独)、ロルフ・ラッスゴル(ゴシップ)、サイズ・パペット・クヌッセン

2006アカデミー外国語映画賞ノミネート
2006ヨーロッパ映画大賞最優秀監督賞、最優秀男優賞ノミネート

公式サイト
http://www.aftertheweddingmovie.com/

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スザンネ・ビエール監督の唯一の日本公開作「しあわせな孤独」です。もっとたくさんの作品が公開されてほしいです。

ストーリーと映画情報
インドの貧民街で孤児達の面倒を見るジェイコブは、資金調達のため、故郷のデンマークに戻る。ジェイコブは、デンマークデモ有数の資産家であり、福祉関係の後援者でもあるヨルゲンに会いに行く。ジェイコブは翌日のヨルゲンの娘の結婚式に招待されるが、そこで彼はかつての恋人であり、今はヨルゲンの妻であるヘレンと再会してしまう。死んだと思っていた元恋人を前に動揺するヘレン。そしてその娘、アンナは式の最中、ある衝撃の発言をすることから、四人を巡る関係が大きく動き始める。
「しあわせな孤独」で知られるスザンネ・ビエール監督のよる親子の関係を巡る人間ドラマ。ドグマスタイルによるざらついた映像に、役者陣の素晴らしい演技が格調高いリアリティを生んでいる。

次代のデンマーク映画を担う才能、スザンネ・ビエール
90年代半ば頃から、デンマーク映画は、ラース・フォン・トリアー監督と彼の提唱するドグマ95によって、世界中の映画ファンに知られるようになりました。デンマーク映画は、古くはサイレント映画時代のカール.テオドール.ドライヤー監督などでも知られる通り、実はかなり昔から良質の映画を製作していた国でもあります。「ペレ」、「愛の風景」でパルム・ドールを2度受賞したこともあるビレ・アウグスト監督なども、ドグマ以前からよく知られる監督の一人でしょう。
しかし、近年デンマーク映画の地位を決定的にしたのは、やはりラース・フォン・トリアー監督と、彼と彼の仲間たちが提唱した、映像制作における10の誓い(純血の誓い)、ドグマ95でしょう。またたく間に、世界中のインデペンデント映画作家に広まったこのルールは、正式に登録された作品だけでも84作を数えます。亜流の作品に至ってはかなりの数でしょう。特にデンマーク映画に至っては、(少なくとも)日本やアメリカで見られる作品は、ほとんどこのドグマの影響下にある作品ばかりです。ドグマは、誓いの中にジャンル映画を禁止する、という項目がありますが、すでにドグマ自体が一つのジャンルのように捉えられている感さえあります。個人的な意見ですが、ドグマの誓いの根底にあるものは、真実を捉えること、というものがあるように思います。誓いのほとんが極力、装飾や嘘は排除する方向のものですから。
さて、トマス・ビンターベアやハーモニー・コリンなど、様々な個性的な監督を排出したこのスタイルから、また一人素晴らしい監督が現れました。日本ではまだあまり知られていないこのスザンネ・ビエールという監督。素晴らしい才能の持ち主です。

人間の真実を捉える姿勢
単に奇をてらったようにスタイルだけは、ドグマであるような作品も多々ある中、この監督は、リアリティある人間ドラマを作り出すため、上手くドグマのスタイルを活用しています。もしかしたら、提唱者のトリアーやビンターベアより、上手いかもしれない。
インドで孤児達を助ける仕事をしている主人公がいる。資金調達のため、故郷へ戻るが、偶然昔の恋人と再会。そして自分の娘の存在を知り、彼女の結婚式にも出席することに。娘は実の父親がだれだかを知ってしまう。育ての父親である資産家は、娘も妻も離れていくのを恐れだす。主人公は実の娘の存在に揺れながらも、孤児達の事を思う。突如、実の父親を知ってしまった娘が自分を頼るの見て、親としてのエゴも芽生え始める。資産家は嫉妬に燃える。がしかし、自分には、特別な理由で家族を主人公に託そうとする。主人公は、孤児達のことを忘れられない。自分を慕う二つの関係に引き裂かれ始める。
揺れる手持ちカメラ、自然照明による、淡いオレンジがかった色調が人物の葛藤を焦燥感を的確に表現し、練り上げられた脚本は文句のつけようも無い。徹底的に人間を見つめようするその姿勢は、映画の本流でもある。

早い所、この作品を日本でも公開して欲しい。合わせて、彼女の全作を特集上映でもしてくれたら、幸いだ。もちろんLAでもやってほしい。
この映画は、今年の5本の指に入るであろう傑作だ。