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映画レビュー「サッド・ヴァケイション」

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記事初出:2007年10月08日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「サッド・ヴァケイション」(2007、日本)
監督:青山真治(helpless、ユリイカ)
脚本:青山真治
製作:甲斐真樹(パピリオン山椒魚、雪に願うこと)
撮影:たむらまさき(helpless、ユリイカ)
出演:浅野忠信、石田えり、宮崎あおい、板谷由夏、中村嘉葎雄、オダギリジョー、斉藤陽一郎、光石研、高良健吾

2007ベネチア国際映画祭正式出品作品

公式サイト
http://www.sadvacation.jp/

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今作へと続く物語である二作、「helpless」と「ユリイカ」です。
  

ストーリーと映画情報
中国からの密入者の手引きで生計を立てている健次。父親を無くした中国人の少年を引き取り、幼なじみの妹、ユリと三人で暮らし始めるが、ある日、幼い頃に自分と父を捨てた母親と偶然再開する。母は、間宮運送の社長と再婚し、運送会社を切り盛りしている。その運送会社のある日、梢がやって来る。住み込みで働かせてくれと云う。彼女もまた、自分と今少年院にいる兄を捨てた母を探していた。一方、健次は自分を捨てた母への復讐のため、間宮運送で働きだし、異父兄弟の勇介に復讐心をぶつける。。。
「helpless」、「ユリイカ」の続編に当たる、青山真治監督の集大成的な作品。今までの作風とは違った新たな側面も見せている。

凶暴な魂を救済するためには
helplessで絶望の淵と狂気を描き、ユリイカでは絶望と狂気により、社会から隔絶して生きる共同体を描いた青山真治監督。狂気を自分の中に持ってしまった時、狂気に触れた人間と出会った時、我々はどのように振る舞うべきか。前二作にある問題意識はそうしたものであろうと思う。ユリイカで示された心のタガが外れた者同士の繋がり合う輪は、今作品でさらに進化した。ユリイカで、青山監督は、そんな凶暴な魂を救済するには、それすらありのまま受け止めてやるしかない、と云った。秋彦が云うような隔離ではなく包括。この単純な、それでいて最も難しい回答は、今作でより一層強く肯定されている。

間宮運送という居場所=ユートピア

間宮運送という所は、一種のユートピアだ。通常の社会からドロップアウトした連中がどこからともなく流れてくる。過去の行状によって居場所を無くした連中に、間宮運送は、居場所を与える。そんな空間は、今、日本のどこであり得るだろうか?このコミュニティは、バスジャックの恐怖によって心のタガが外れた者同士が作る、ユリイカのあの疑似家族の拡大版と云えるかもしれない。母親に捨てられた過去を持つ健次。「helpless」で恐ろしい現場を目撃もしている彼は、やさしくユリや中国人の孤児の面倒見ているが、どこか心のタガが外れているようにも見える。浅野忠信は、心のタガが外れた男が日常に紛れ込んでいる様を演じるのがとても上手い。彼の凶暴な魂は、復讐するべき相手、自分と父を捨てた母親、千代子と再開した時、爆発する。しかし、爆発した後も、千代子は健次を受け入れてやろうとする。もう一人の息子を殺されたというのに。

凶暴な魂を救済するにはどうすればいいのか。「ユリイカ」では、役所広司扮する真は、直樹をただただ抱きしめ、居場所を作ってやろうと試みた。帰ってくるまでいつまでも待つと。今作でも、石田えり扮する千代子は同じ事をした。間宮運送と千代子は、むしろ、そんな凶暴な魂を自ら積極的に包み込もうとする。これほどの包括さを持つコミュニティは、昨今の日本にはもはや存在し得ないだろう。ゆえにこの間宮運送は、ユートピアだ。ファンタジックなエンディングがそれを物語る。しかし、そんなあり得ないほどの包括さが、凶暴な魂を救済できる唯一のものだ、と青山監督は云う。
青山監督の新たなる傑作は、現代日本社会にとっては無理難題ともいえるほどの、大いなるチャレンジを描いている。