[PR]

映画レビュー「フラガール」

[PR]

記事初出:2007年02月20日 seesaaブログからの引っ越し

hulagirl.jpg
基本情報
「フラガール」(2006、日本)
監督:李相日(69、スクラップ・ヘブン、青~chong~)
脚本:李相日、羽原大介(ゲロッパ、パッチギ)
製作:李鳳宇
音楽:ジェイク・シマブクロ
出演:松雪泰子、蒼井優、豊川悦司、山川静代、岸部一徳、富司純子

日本アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞、助演女優賞(蒼井優)、話題賞

公式サイト
http://www.hula-girl.jp/top.html

[PR]

李相日監督のデビュー作「青~chong~」と今作「フラガール」DVDです。
 

ストーリーと映画紹介
昭和40年代、福島県いわき市。かつて炭坑町として栄えたこの町も外国から輸入される安価な石油に押され、炭坑が次々と閉鎖されて行く中、新たな事業として「常磐ハワイアンセンター」の設立が持ち上がる。そしてハワインダンサー募集の張り紙を観た早苗は親友の紀美子(蒼井優)を誘い説明会に出かけるが、集まった炭坑の女達は、露出度の高い衣装に恐れをなしてにげだしてしまう、残ったのは、早苗と紀美子を含めて4人。そして東京からSKD出身のダンサー、平山まどかを迎えて炭坑娘たちの必死のレッスンが始まる。
日本アカデミー賞を受賞した2006年最高の感動作。日本映画界期待の俊英、李相日監督の代表作になることは間違いない。

映画はエンターテイメントかメッセージか

李相日の名前は僕にとっては、特別です。99年4月に日本映画学校に入学した僕は、その最初の学期で入れ違いで卒業(99年3月)した李監督の卒業制作作品「青~chong~」を観て衝撃を憶え、映画学校入学したてで希望に溢れていた僕の心にさらに大きな希望を与えてくれました。「ああ、三年間ここ(日本映画学校)で勉強すれば、こんないい映画が作れるようになるんだ」と。まあ、結局三年間学んでも李監督の作品に達するものは作れなかったわけですが。
当時から、李監督の手腕は抜きんでていたように思います。その作品「青~chong~」はPFFグランプリも当然のように獲得し、一般劇場での公開までこぎ着けました。在日朝鮮人の青春という題材を重くなりがちな題材を、軽快なテンポで楽しく見せるその手腕は、すでに学生のレベルを軽く超えていました。自主制作や学生映画にありがちな、ひとりよがりさや、自己満足感がほとんどなく、当時からすでに李監督は、人にモノを見せることで何が大事か知っていたように思います。楽しめるものでなければ見せる意味がない、だれも観たくない。だれも観てくれなければ、なんのメッセージも伝わらない、ということを。彼の卒業制作「青~chong~」はその娯楽性とメッセージ性の二つが完璧にシンクロしていた。
では、今作「フラガール」はどうだったか。

近年稀に見る完成度の高い娯楽映画
この映画は、エンターテイメント映画として、相当高いレベルにあると思います。冒頭の松雪泰子、あるいは終盤の蒼井優のソロダンス。そこには、言葉にならない開放感と高揚感がある。ドラマツルギーも非常によく練り込まれている。さすがは「パッチギ」の脚本家、羽原大介さんだ。古い因習から解放されたい少女たち、そこには親達や炭坑夫達の古い価値観から抜け出す為の戦いにドラマが生まれる。そこに東京での生活に疲れた女ダンサーが新しい風を持ち込む。ところがこの女も東京では居場所を見つけられない。そうして流れてきたこの寂れた炭坑の町に自分の居場所を見つける。急激な経済成長で流動性の高まった東京に居場所を見つけられず、昔ながらのコミュニティが崩壊する前の炭坑町に住み着く女ダンサーは、どこかノスタルジーのある物を求める現代人と重なる。これもドラマとして素晴らしい。笑いもあり、涙もあり、ダンスの迫力も相まって、上映時間中、観客の目をスクリーンに釘付けにし続ける。完璧なエンターテイメントだ。
しかしながら、この作品は強くメッセージを訴えてこない。題材は深刻なものを内包している。何千人単位のリストラが断行され、肝心のハワイアンセンターは、その一部の人間しか雇用を補償できない。一致団結して建設反対を唱える炭坑夫の中にも、抜け駆けをする者が現れる。そうしてかつてあったはずの、現代日本では見る影もない地域コミュニティは壊れていく。反対にラストのダンスシーンでこのコミュニティは、再び活気を取り戻したかのような錯覚を憶える。そんなはずはない。最後のテロップが示す通り、炭坑が完全に閉鎖されたとき、4千人が解雇されているのだ。ハワイアンセンターがその全ての受け止め口になり得た、とはとても思えない。
明らかに、このフラガール達の感動的なドラマの裏には、深刻な事情がある。にもかかわらず、この作品は、その事にあまり触れていない。言い換えれば、この映画娯楽性とメッセージ性が「青~chong~」ほどにはシンクロしていない。

しかし、だからこの映画はダメなのか、といったらそんなことはない。むしろ傑作だ。この映画はそれでよかったのだと思う。作り手達が、お客さんになにを見せたいのか、考えた時に、暗い影より、明るい花を選んだだけだ。この映画の明るい花は、そんなリアルな問題を見せる事と同じかそれ以上に素晴らしい。

この映画はこれで良かったのだ!