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映画レビュー「グアンタナモ、僕達が見た真実(The Road To Guantanamo)」

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記事初出:2006年06月24日 seesaaブログからの引っ越し

guantanamo.jpg基本情報
「The Road To Guantanamo」(イギリス、2006)
監督:マイケル・ウィンターボトム(In This World、バタフライ・キス)、マット・ホワイトクロス
製作:Andrew Eaton、Melissa Parmenter
出演:Rizwan Ahmed、Ruhel Ahmed、Asif Iqbal、Shafiq Rasul

公式サイト
http://www.roadtoguantanamomovie.com/(英語)

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2006ベルリン国際映画祭監督賞受賞

マイケル・ウィンターボトム監督の難民問題を扱った「イン・ディス・ワールド」こちらも今作にまけず劣らずの力作です。
  

ストーリーと基本情報
2001年、イギリス国籍を持つ4人のイスラム系の若者が、結婚式に出席するため、パキスタンへと旅立つ。だがアフガニスタンとの国境近くでアメリカ軍の空爆に合い、一人は行方不明、三人はアメリカ軍に捉えられ、アルカイダのメンバーであるとの言い掛かりの嫌疑をかけられ、グアンタナモ収容所へと送られてしまう。
「Tipton Three」として知られる実話を基にした、ドキュメンタリードラマ。約2年もの間、無実の罪で収監された三人の若者の受けた過酷な尋問と生活を克明に描く。

まず、これが実話であるということがにわかに信じ難い。たまたま、そこに居合わせただけの若者達。たまたまイスラム系の顔をして、たまたまイギリス育ちなので、英語が堪能で、それゆえアルカイダのメンバーであるとなんの証拠もないままでっちあげられる。人はここまで想像力を欠くことができるのかと頭を悩ませた。
2001年アフガン侵攻の最中に起こったこの史実は、いかにアメリカ、そしてイギリスがぶち上げた、「対テロ戦争」というお題目がいかにデタラメに満ちたものであるかを示してくれる。そしてその熱に浮かされた国際世論がいかに罪深いかをも考えさせてくれる。

映画中盤のあるシーン。ワシントンから来たという女性が主人公に対して尋問を始める。2000年、あなたはアフガンでビンラディンに会っているでしょうと云って、写真とビデオを見せる。このビンラディンを崇めている群衆にあなたとあなたの友達がはっきり写っている、と云って。だが、そのビデオはだれがどう見てもボケボケで識別不可能。主人公の若者も苦笑いするしかない。だが、その知性を感じさせる女性捜査官は、大マジメな顔で「ここにあなたがはっきりとビンラディンの声に耳を傾けるあなたが写っているわ」と執拗に自白を迫る。一体、どこまでどこまで本気でやっているのだろうか。
それは、何か狂信的なものを感じさせるほどのものだ。

それとは、対照的なシーンもあった。捉えられた主人公の一人がフェンスで仕切られた収監施設(建物の外に作られたもので、グアンタナモは昼は灼熱地獄、夜は冷え込む砂漠気候である)の中で、ラップを口ずさむシーンがある。エミネム、トゥーパックなどなじみのある名前を出し、一人のアメリカ人兵士が寄ってきてそれに聞き入る。後日、そのアメリカ兵は、夜中囚人が寝静まっている時にサソリを踏みつぶして主人公を救う。わずかながら、そのアメリカ兵は、囚人達と心を通わせているように見える。他の囚人が相変わらず殴る、蹴る、引きずり回すといった行為を当たり前のようにやっているのに。
僕が思うに、「ラップ」という共通体験が、このアメリカ兵に、相手もまた自分と同じ人間なのだ、と感じさせる想像力を取り戻させるきっかけになったのだろう。

この作品は、平和な世界にクラス僕らの想像を絶する現実を見せる。人間は相手を人間だと見なす想像力をいとも簡単に失うことがあるということを。そしてそれを克服するのもまた想像力でしかない。この映画は観る人の想像力を広げる手助けになるだろう。