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映画レビュー「ワルボロ」

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記事初出:2007年09月07日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「ワルボロ」(2007、日本)
監督:隅田 靖
原作:ゲッツ板谷
脚本:木田紀生(バトル・ロワイアル II)
製作:黒澤満(69 sixty nine、あぶない刑事)
プロデューサー:國松達也、菅谷英智
出演:松田翔太、新垣結衣、福士誠治、仲村トオル、戸田恵子

公式サイト
http://www.waruboro.jp/

本作の原作、コミック版、そしてメイキングDVDです。
  

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ストーリー
80年代、舞台は立川、マジメな中学生、コーチャンはある日授業中に絡んで来た中学一の不良、ヤッコに対してマジ切れし頭突きを食らわす。その日から、今までの自分から解放されたコーチャンは、勉強一筋の人生から一転、不良として新たな青春を刻み始める。他校の不良達と抗争に明け暮れる充実した毎日を送るが、クラスのマドンナ、山田とは疎遠になり始める。
松田翔太&新垣結衣主演で送る、むやみに熱い80年代青春映画。ツッパリ映画の古典、「BE-BOP HIGH SCHOOL」の仲村トオルも出演。

ツッパリとは極めてローカルな存在である
この夏、日本に帰国した際、多摩モノレールに乗った。人工的な街、多摩センターから巨大ショッピングモールの立川北まで、約一時間。モノレールから見下ろす風景は中央大学・明星大学を抜けてトンネルをくぐると、似通った風景が続く。毎日乗れば違いもわかるかもしれないが、たまにしか乗らない人には、延々と同じ風景が続くように感じられ、時間が非常に長く感じられた。東京郊外は再開発によって、どこも同じような街になってしまった。それと時期を同じくして、ツッパリもまた姿を消した。時代が時代ならツッパリになっていたであろう連中は、チーマーに姿を変え、渋谷などに繰り出すようになった。ツッパリは、極めて地元的な存在だ。たむろす場所は、自分達の学校のある街であり、渋谷などにわざわざ行ったりしない。ツッパリには、チーマーには無い、縄張り意識があるからだ。彼らは、頼みもしないのに勝手に自分達が街の代表だと思っていて、他の街のツッパリと街のプライドをかけてケンカしたりする。ゆえに街から地域性、特殊性が失われれば、ツッパリもまた消滅せざるを得ない。

ピストルの形をした立川で、しのぎを削る各中学。物語の初期段階で各中学の勢力分布が示される。だが、それは各中学がどこに位置しているかに留まる。もったいない。こういう地域にある中学だから、こう云うタイプの不良が生まれる、といった因果関係が提示されてもよかった。様々なタイプのツッパリが登場するが、なぜ立川市だけで、これだけ多種多様なツッパリが存在し得るのか、見ている側はわかりにくい。今の中学生は、どこの学校もほとんど同じ格好をしているというのに。おそらくは、80年代には、この東京郊外の街にも地域性が色濃く残っていたに違いないが、それが見る側には伝わってこないのだ。
物語前半の滑稽なエピソードもあまり笑えない。そのため後半のカタルシスのパンチ力も半減している。ツッパリの振る舞いやこだわりは、現在から見れば、もっと滑稽だったはず。しかし、そんなバカなことに熱くなれる「色濃さ」に地元の特殊性を持たない今の観客は羨望する、というのがこの映画の狙いであるべきじゃないか。昨今ノスタルジー映画がヒットする傾向があるが(もう落ち着いて来たか?)、かつての街にあった「色濃さ」が描かれなければ、ノスタルジーを喚起することもできない。

その土地にふさわしい物語というものがあると思う。この物語は、当時の立川にある種のローカリティが存在していたからこそ、生まれ得た物語であろう。しかし、今の立川ではもうあり得ない。立川だけでなく、東京のどこで「地域」が生み出す物語が成立するだろうか。
各キャラクターの個性ははっきりと描かれていて面白いので、最後まで見せ切る力はあるが、この題材はもっと面白くなる可能性を秘めているだけに残念だ。