以前に「とりあえずペンディング! 続・無許可ダウンロードの罰則化が引き起こす問題」「ある日突然犯罪者扱いに? 無許可ダウンロードの罰則化が引き起こす問題」で紹介した件だが、ペンディング以降、ずるずると日時流れていくだけで問題点の洗い出し等もされずに、何と今週中にもファイルの無許可ダウンロードの刑罰化が委員会で決まりそうな勢いだ。
6月4日に「一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)」が出した違法ダウンロード刑事罰化についての反対声明によれば、6月6日に開催予定の衆議院文部科学委員会において刑罰化が決定されるとの予想だったが、開催は2日間ずれ込んで8日に開催されたものの大臣による趣旨説明があっただけで終了し、6月11日朝現在で決定には至ってない。
今週が正念場になると見られているが、この問題点についていまいちどよく考えてみる必要がある。「違法ダウンロードなのだから罰せられても仕方ないだろ」と思う人が多いのだが、そりゃそうだ。違法行為なんだから、罰則を与えたっていいじゃないかという当たり前の理屈で考えるのが自然だ。こうした行為に対して今までは“おとがめなし”だったのをやめて罰則を与えようという動きの何が悪いのか? ということについて考えてみたい。
記事トップ画像のMIAUの意見では、摘発の対象となる可能性が高い(圧倒的な数になりそう)のが“知識のない子供たちである”ことを挙げている。そしてこうした行為を防ぐような啓蒙活動や告知キャンペーン、知識の教育を行っているのか? ということ(現状では行っていないし、行われる予定にもなってない)。無許可ダウンロードという行為が悪いことだと周知徹底させずに、ダウンロード即逮捕とは、それっておかしくないですか? というわけだ。極端に例えるなら交通ルールを教えずに赤信号で渡ってくる子どもたちに次々と縄をかけることにならないか?というわけだ。
また“合法ダウンロードと違法ダウンロードの違い”、“合法ファイルと違法ファイルの見分け方”といった知識の教育も行わずに、いきなり罰則を与えるということが、ちょっと乱暴なのではないだろうか? ともいっている。さらにTPPに参加すると親告罪から非親告罪へと格上げされ、捜査機関によって捜査権の濫用も指摘されている。こうした意見はMIAUのサイトに掲載されているので、じっくり読んでみるといい。この反対意見については筆者も同意する。
しかし、罰則化によって覚えのない摘発を受ける危険性があるのは子供たちだけではなく、我々オトナたちも相当危険であるということを忘れてはならない。それは、この罰則化によって新しいウイルスや悪意のあるプログラムが作成され、それが国内にまん延するようなことでも起きれば身に覚えのない摘発を受ける可能性があるということだ。インターネットを普通に利用している状態では、こうした被害を受けるようなことはないだろうと、楽観視しているのなら大間違いだ。
※以降はあくまで推測での話であるが※
ズバリ言えば、強制的に違法ダウンロードを行わせ、その行為を第三者に暴露し、そして逮捕までまでさせようとする暴露型ウイルスが間違いなく登場する。ノードの減らないWinnyやShareといった違法データが流れまくっているP2Pソフトでは、違法ダウンロードを行っている連中に対し、過去の暴露ウイルスのような形で“強制罰則ウイルス”とでもいうようなウイルス被害が出始めるだろう。
そして騒ぎになるまで静かに感染が広がっていく。それが一般に広がるには、それほど時間はかからないのは過去の例を見ればわかる。話は簡単、違法ファイルのフォルダ情報とPC名を画面キャプチャを含め特定サーバにアップする新しい暴露ウイルスを作ればいいだけだ。非公開の状態でサーバにデータを蓄積し、一定の人数に達した段階で一気に暴露行為を行う。何百~何千といったPCがこのウイルスの被害を受ければ、逮捕予備軍が何百~何千出来上がるわけだ。
このウイルスの作成者は、違法ファイルを落としているPCの一覧データを作成し、「正義の鉄槌を下す!違法ダウンロードを行ったPCデータ」とでも称したデータベースを作成、それを捜査機関に定期的に送信するだけだ。そこまでは自動化できる。ここまでセットしたら、あとは放置しておくだけでいい。
どういう経緯で無許可ファイルや著作権非クリアファイルを落としたのかは置いておき、刑罰対象となる行為を証明する画像やデータが出ていることに対し捜査機関は、まったく無視を決め込むというわけにはいかないだろう。
ほかにもスパムメールに似たような暴露スクリプトが仕込まれる可能性もある。ある日、うっかりスパムメールと知らずに読んでリンクをクリックしてしまったら? そこに悪質な暴露スクリプトが仕込まれていて、勝手に怪しいサイトに接続され、挙げ句に怪しい違法ファイルまでバックグラウンドでPCに送り込まれてしまったら? 見事に摘発対象PCの出来上がりだ。
こちらも裏でPCのIPアドレスや接続している時間等を記録したデータに加えて違法ダウンロードをしたPCであることを示したメールを捜査機関に自動で送るような設定になっていたとしたら? 所有者が気がつくまで、自分のメールソフトから、勝手に「自分は違法行為をしました!」というメールが送り続けられるとしたら、もうシャレにならない。
「ちょっとお宅のPC調べさせてください!」とある日突然、PCを押収され身に覚えのないファイルのダウンロードで罰則を受ける。こんなことになったら? このようにオトナであっても十分に危険であることがわかるだろう。ウイルス被害は例外なんて基準を設けたら、わざと違法行為を行っておきながら“ウイルス被害です”と主張する輩が必ず出てくる。例外や適用外という抜け穴を作ってしまうと一定の抑止効果にはならないだろう。
さらにスマホだって危険だ。例えば「ヘンなアプリに要注意! データぶっこ抜きアプリか?Google playに不審なアプリが出回る」で紹介したように悪意のあるAndroidアプリが作られる可能性がある。“アプリのアップデート”と称して違法ファイルをガンガンに端末にダウンロードし、違法ファイルがある程度溜まったら、今度は端末情報を特定のサーバに送り込むなんてことができてしまう。
そうなったら端末情報から「アナタの端末に違法ダウンロードファイルがあるのを確認しました。このままでは罰則の対象となってしまうので早急な対応をお願いします。対応費用は○○○○円で、それを以下に振り込んでください」などという連絡を送ることもできる。怖くなった人は、素直にお金を振り込んでしまうかもしれない。
現在は“無許可ダウンロードが罰則化されていない”のでこうした被害が出ることはない。しかし、ひとたび罰則化が決定した段階でウイルスやスクリプト、そして新たな振り込めサギの手法、悪ふざけを目的とした悪意のあるツールが作成され、被害が拡大する可能性がある。このように被害を受ける危険性は、子供たちだけでなく、われわれ大人たちにだってあるのだ。
こうした危険性は、おそらく国会議員に言っても伝わらないだろう。そしてネットやPCの詳しい知識がないので、どれだけ危険であるかという認識まではしてくれないだろう。無許可ダウンロードの刑罰化によって、新しい犯罪の温床が作成されるのだとしたら、ちっとも笑えない話だ。重要な決定を行うのだともっと慎重になってもらいたい。
あらゆる危険性を想定・抽出し、対応に関する議論を尽くしてもらい、そうした憂いを排除した状態で刑罰化の決定を行うか、すっぱりと廃案にするといった対応を求めたい。
■『「違法ダウンロード刑事罰化」について、議員向けの反対声明を発表しました』(MIAU)
提供:ITライフハック – livedoorニュース
SOURCE:子供たちだけじゃない!ファイルの無許可ダウンロード罰則化はオトナも危険