この映画はすごい観たかった。ショーン・ペンとフランシス・マクドーマンドの競演というのもかなり魅力的だが、この音楽的な映画というのはいい。映画にとって音はホントに大事だから。
カンヌ国際映画祭で出会った2つの才能が生み出した“五感に訴えかける”映画
アメリカの名優であり監督のショーン・ペンが、パオロ・ソレンティーノ監督作品『イル・ディーヴォ』に惚れ込み、監督と意気投合。一緒に作品を作ることを約束し、実現した映画『きっと ここが帰る場所』が6月30日より公開される。
本作の主人公は、かつて絶大な人気を誇ったロック界のスーパースター、シャイアン。アイルランドのダブリンにある広大な邸宅で、妻ジェーンとひっそりと暮らしていた。日課は、シャイアン・オタクのロック少女メアリーとショッピングモールのカフェに行くこと、妻とハイアライというゲームを楽しむこと、儲からなそうな株に投資すること。ある日、故国アメリカから、30年以上も会っていない父親が危篤になったという知らせが届く。飛ぶのが嫌いなシャイアンは、船でニューヨークへと向かうが、着いた時には父親は亡くなっていた。父親の葬儀の日、伝説のナチハンター、モーデカイ・ミドラーに出会う。そこで、ユダヤ人である父が、アウシュヴィッツ収容所を管理していたSS隊員アロイス・ランゲに復讐しようと探していたことを知る。シャイアンは、亡き父に代わり、ランゲを探すためアメリカ横断の旅に出る。
主演を務めるのは、『ミスティック・リバー』『ミルク』でアカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したショーン・ペン。その他、『ファーゴ』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンド、『普通の人々』のジャド・ハーシュ、U2のボノの娘イヴ・ヒューソンら個性的なキャストが勢揃いしている。
本作は、説明的なセリフや描写を一切排除し、キャストの演技、映像、音楽を引き立てて物語を展開していく。特に注目したいのが音楽。元トーキング・ヘッズのデイヴィット・バーン、ボニー・プリンス・ビリーのウィル・オールダムが担当している。デイヴィットは、本人役として出演もしている。監督は、本作で少年期に自身が経験した“信じられないほどの感情や情熱”を蘇らせたいと思っていたという。そこで自ら、大好きだったディヴィットに本作に関する3つの依頼をする。本作の原題に彼の曲“THIS MUST BE THE PLACE”を使い、かつテーマ曲にしたいということ、本作の映画担当になってもらうこと、自身で演奏して出演してもらうことだった。脚本を読んだディヴィットは、依頼を快諾。本人役で出演する時に「デイヴィット・バーンを演じて欲しい」と要求されたという。撮影を終えたデイヴィットは「私とシャイアンは、かなり奇妙な組み合わせだったと思う」とコメント。2人の共演シーンに注目したい。
「本当のアメリカンドリームのように、夢が実現になった」
そう語ったのは、パオロ監督だ。月に40作品もの脚本を受け取るという噂があったショーンに脚本を送った時、何カ月も待たなくてはいけないと覚悟をしていたという。ショーンからの返事を期待せず、すでに別の作品のアイディアを考え始めた時、ショーンから「脚本を気に入った」という連絡が入る。脚本家や製作者とともにショーンに会ったパオロ監督は「監督にとって理想の俳優だ」とコメント。ショーンのことを「完璧に監督のアイディアを大切にし、そのアイディアをより良くするためのコツを感覚で持っている」と言い、“偉大な俳優”と評価している。
そんな“偉大な俳優”ショーンは、シャイアン役を度肝を抜くような姿で演じている。全身黒ずくめの服を着て、マスカラと真っ赤な口紅をしている彼の姿からは、『I am Sam アイ・アム・サム』で主役を演じていた時の姿は想像つかない。シャイアンのルックスは、ロバート・スミス、ザ・キュアーのリード・ボーカルからヒントを得ているというが、特定のロックスターをモデルにした訳ではないという。「まず自分を越えようとして、そして絶えず自分に問いかけて身を委ねる」というショーンの役作りの方法によって、シャイアンという人物は作り上げられていった。ショーンがこれまでに経験してきた俳優・監督としての感覚で演じているシャイアンと、全編に散りばめられた音楽は、本作の最大の魅力だろう。
これまで日本で劇場公開されることがなかったパオロ監督作品だったが、ショーンからのラブコールを受けて実現した本作で、ついに日本公開となる。イタリア出身の監督の中でも特にユニークな存在であるパオロ監督が手掛ける本作は、日本でどのような評価を受けるのだろうか。
映画『きっと ここが帰る場所』は、6月30日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマライズにてロードショー。
・映画『きっと ここが帰る場所』 – 作品情報
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