記事初出:2007年03月13日 seesaaブログからの引っ越し
基本情報
「ダーウィンの悪夢」(ドキュメンタリー、2006、オーストリア、タンザニア、フランス、ベルギー)
監督:フーベルト・ザウパー
製作:フーベルト・ザウパー
出演:フーベルト・ザウパー
公式サイト
http://www.darwin-movie.jp/
2004ヴェネチア国際映画祭ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞・コミュニティシネマ賞受賞
今作のDVDです(発売日は未定)。
ストーリーと映画紹介
かつて「ダーウィンの箱庭」と呼ばれたほど、多くの種の生物が共存していたタンザニアのビクトリア湖。ある日、外来種のナイルパーチを湖に放したことから、爆発的な勢いで繁殖する。加工しやすく、輸出向けの食品としてぴったりだったナイルパーチは、この湖湖畔に大金を産むビジネスとなる。しかし、湖の生態系が崩れ、仕事を求め他の村からも人が押し寄せ、やがて湖周辺には、売春、エイズ、貧困、ドラッグが蔓延していく・・・・
グローバリゼーションが産む究極の負のスパイラル示す衝撃のドキュメンタリー。
グローバリズム。南北問題
wikipediaによると、グローバリズムとは、地球を一つの共同体と見なす思想、或いは地球規模で行われる経済活動を指すそうです。運輸や通信技術の爆発的な進歩によって可能になったグローバリズムは、もはや我々の生活インフラを支える存在にまでなっています。我々は、石油を中東から買い、安価な食料を世界中から輸入し、世界中からインターネットで情報を得ています(日本語サイトしか見なくても、そのサーバーは日本にあるとは限らない)。投資や金融システムも、もはや一国の中だけでは完結しなくなっています。すでにグローバリズムの外に出ることは不可能な感さえある。そして、昨今のグローバリズムによる、先進国の反映は、南北問題を下敷きにしています。南北問題とは、先進国と発展途上国との経済格差を指す言葉ですが、もともと途上国のようなもともと貧しい国は、グローバル経済の中では、競争力のある製品など作れはしないのです。彼らは主に資源や食料を先進国に売るしかないのですが、国際的な競争にさらされた結果、どんどん安価な値段で買い叩かれ、貧しい国々は、もっと貧しくなっていく。昨今のグローバリズムとはこのような概ね構図になっている云えるでしょう。
一匹の魚から始まる究極の負のスパイラル
アフリカ、タンザニアの美しい湖、ヴィクトリア湖に放たれた一匹のナイルパーチ。全長2メートルにもなるこの魚は脂の多い白身魚として非常に加工しやすい。しかし、肉食魚であるため、他の魚をどんどん食いまくり、湖の生態系に深刻な影響を与えている。一方、ナイルパーチ加工・輸出業は、この町の一大産業となり、多くの雇用を生み出し、町の経済を活性化させた。仕事を求め他の地域からも多くの人がやってくるようになった。しかし、仕事の量はは当然限られている。そうしてこの地域では一部の人が儲かり、仕事にあぶれた者たちの間で貧困が広がる。その結果、女たちは売春で生計をたてざるを得なくなる。輸出機のパイロットや漁師たちを相手に。すると今度はエイズが蔓延する。ストリートチルドレンも増えていく。貧しい者たちは今日を生きる食料の確保も困難になる。ナイルパーチは高価すぎる。彼らは加工した後にでる、残った頭や骨を焼いたりあげたりして食べるしかない。その大量の残り物から有毒のアンモニアガスが吹き出し、ある女性は眼球が落ちてしまった!子供達は空腹を忘れるためにドラッグに手を染める。ただ、ドラッグすら買うことのできない子供が大半なので、彼らは剰ったナイルパーチの梱包材で、粗末なドラッグを作る。この負のスパイラルから抜け出せない人々は、やがて戦争を望むようになる。兵士として雇われれば金になるからだ。そうしてアフリカでは、戦争の火種が消えることはない。実際に、作品中に登場する夜警の仕事をしている男は云う。「軍隊の給料はいい。戦争さえ始まれば軍隊に入るのに」と。そして、ナイルパーチを運ぶ飛行機にまつわる噂がある。ひさかに武器の密輸を行っていると。ナイルパーチは日々、ヨーロッパや日本に運ばれ、安価な白身魚として食卓に並んでいたりする。
ナイルパーチが湖の他の生物を食い尽くせば、やがてはナイルパーツすら生息できなくなる。まさにこのグローバリズムという魔物は、最終的には自らも滅ぼしていく。
すでに存在してしまっている地獄
グローバル経済の中で、いかに先進国に住んでいる我々が貧しい国々を搾取して生きているか、この我々の豊かな暮らしを支えているものが、実はとんでもない悲劇や矛盾であることをこの映画は明らかにしています。この究極の負のスパイラルのおかげで我々は日々、幸せな暮らしができるのです。
地球上には、温暖化や環境・エネルギー問題など様々な大問題が数多くおりますが、この南北問題を下敷きにしたグローバリズムを無視しては、何一つとして議論にならない。それらの問題を解決しなければ、早晩地球の生きる人は、地獄を見るかもしれない。しかし、ここにすでに地獄は存在している。僕らの生活を支えるために。
※追記(2007-03-15)
ダーウィンの悪夢を巡っては、タンザニア大使館からの抗議があったり、
フランスでナイルパーチボイコットが起こったりと様々な動きがあります。
このドキュメンタリー映画の映す映像は、あまりに衝撃的なので、これを全ての事実にすり替えられてしまう恐れもあると思ったので、カウンター情報として下記のリンクを貼っておきます。