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映画レビュー「Brokeback Mountain」

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記事初出:2006年05月07日 seesaaブログからの引っ越し

brokeback.jpg 基本情報
「Brokeback Mopuntain」(2005、アメリカ)
監督:アン・リー(恋人達の食卓、ウェディング・バンケット、いつか晴れた日に)
脚本:ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ
製作:ダイアナ・オサナ、ジェームズ・シェイムス
出演:ヒース・レジャー(ロード・オブ・ドッグタウン、パトリオット)、ジェイク・ギレンホール(ジャーヘッド)、ミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ

2005ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞、2005ゴールデングローブ作品賞、監督賞、脚本賞、2005アカデミー監督賞、脚色賞受賞

公式サイト
http://www.wisepolicy.com/brokebackmountain/

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今作品の原作、サントラCD、そして発売時期は未定ですがDVDです。音楽もアカデミー音楽賞を受賞しているだけあってかなりの出来映えです。

ストーリーと基本情報
1960~1970年代のワイオミングを舞台に展開する二人のカウボーイの恋愛を描いた作品。イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)はワイオミングのブロークバック・マウンテンで羊の放牧管理の仕事を得る。大自然の中で二人だけの生活を営むうちに、二人には、友情を超えた恋愛感情が芽生える。
やがて二人は、それぞれに女性と結婚し家庭を持つのだが、20年もの歳月をかけて二人は禁断の愛を就中させていく。
同性愛者に対する差別の根強い時代に男根社会の象徴であるようなカウボーイの同性愛という異色のモチーフを用いた、繊細な恋愛物語。
巨匠アン・リー監督の新たな代表作。

社会的問題を扱った非社会派映画
今年のアカデミー作品賞候補は、どれも政治的、社会的な問題を題材にとる作品が大勢を占めました。作品賞を受賞した「クラッシュ」、スピルバーグ監督作品のイスラエル選手団射殺事件とその報復を描く実話映画「ミュンヘン」、ジョージ・クルーニー監督作品のマッカーシズムに真っ向から挑んだジャーナリストを描いた「グッドナイト、&グッドラック」、伝説のジャーナリストかポーテの半生を描いた「カポーテ」、そして前評判では作品賞最有力候補だったこの「Brokeback Mountain」。リベラルの気風が強いアメリカの映画業界は、現在のアメリカが置かれている政治的状況に対して強い反発心をもっているためか、今回このような選考になったのでしょうか。
しかし、今作品は、その中にあって唯一非政治的な匂いを持った作品であると云えます。背景として同性愛に対する厳しい差別の残る時代を舞台としてますが、声高に権利を訴えるでもなく、この作品はひたすら二人の男が長い歳月をかけては育む純な愛に焦点をあてています。
スピルバーグやジョージ・クルーニーとは、アン・リーの姿勢は明らかに違っています。二人が声高に何やら正義や真実めいたものを主張する一方で、アン・リーはひたすらに二人の揺れ動く繊細な感情をたんねんにすくい取っていく。それを物足りないと思う向きもあるかもしれません。なぜ現実に存在する社会的問題を扱っておきながら、それを全面に押し出さないのか。
僕はそれはそれでいいと思います。なぜなら、映画は人間を描くものであり、本来それ以上でも、それ以下でもある必要などないのです。

映画の本流
故・淀川長治さんは、いつも映画は人間を描くものだとおっしゃっていました。後年淀川さんは、いやらしいまでに政治的な正義を振りかざそうとするスピルバーグを大批判していました。淀川さんが評価する作品は、いつもウッディ・アレンやアルトマン、マイク.リーのような人間面白さ愚かさ、強さ、優しさ、美しさをひたすら描く映画ばかりでした。もちろん、ウッディ・アレンの作品にも在ニューヨークのユダヤ人という実は政治的なバックグラウンドを抱えているし、マイク・リーの作品もイギリスの低所得者階級にスポットを当てることが多いのですが、彼らは決して映画をそうした問題を告発するためのプロパガンダに利用しようとしない。むしろ、そうした社会問題は遠景に遠ざけていて、ひたすら人間同士の関係性を描こうとする。アルトマンもしかり。アルトマンにいたっては、そうした大マジメに社会問題を描こうとする映画や人物を暗に皮肉っているようにすら見える。思えばチャップリンの映画もそうだった。チャップリンの映画の中核はいつでも「愛」だった。ヒトラー批判の映画「独裁者」ですらそうでした。チャップリンは重大な社会問題を扱いながらも、それを乗り越える人間的強さをいつも訴えていた。この「Brokeback Mountain」もまた、そういう系譜に属する作品であると云えます。アン・リー監督の視線は、常に繊細で暖かく二人を見つめるものです。この監督は、そういう繊細な心の機微をすくい取るのが実に上手い。アメリカで活躍する映画監督としては、すごく貴重な存在ですね。

個人的には、「クラッシュ」がアカデミー作品賞を受賞したことは、嬉しかったのですが、もし今作品が受賞していたらそれはそれでよかったとも思います。政治、社会という重たい足かせを取り払ってひたすらに人間をつぶさに見つめるようなタイプの作品ももっと評価されてほしいと思うからです。
まあ、アカデミーが評価していなくても、ベネチアがしっかり賞を与えてくてれいるので、安心してますけど。