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映画レビュー「ゆれる」

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記事初出:2007年03月05日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「ゆれる」(2006、日本)
監督:西川美和(蛇イチゴ)
脚本:西川美和
制作:熊谷喜一
企画:是枝裕和
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、真木よう子、新井浩文、蟹江敬三、木村祐一、田口トモロヲ

2006カンヌ国際映画祭監督週間正式出品作品

公式サイト
http://www.yureru.com/

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今作のDVDと西川監督の前作「蛇イチゴ」です。
   

ストーリーと映画情報
売れっ子カメラマンの猛は、母の一周忌のために帰郷し、久しぶりに父の勇や兄の稔、そして幼なじみの智恵子らと再会する。稔の提案で猛と稔、智恵子は三人で近くの渓谷に遊びに行く。久しぶりに再会した、あか抜けた猛を見て智恵子は、自分も一緒に東京へ行くと言い出す。そんな折、智恵子は吊り橋から落下し命を落とす。その時、そばにいた兄の稔は放心状態で橋の下を見つめていた。その光景を目撃していたのは、猛ただ一人。事故か殺人か。やがて裁判が始まり、兄と弟、それぞれが様々な思いの間を揺れ動く・・・
日本映画界期待の若手、西川美和監督による人間ドラマ。前作「蛇イチゴ」で見せた鋭い人間観察力にさらに磨きがかかっている。

西川美和、その驚異の才能
正直、この作品には仰天した。まさか32歳の若手監督がここまでやるとは。監督2作目にして、すでに巨匠の風格さえ漂う重厚な人間ドラマ。これは凄い快挙だ。
人間とは、通常何をするにせよ、単一な動機や思いでは動かない。いつでも理由や複合的で、人の心の中はいろんな感情や考えがドロドロと渦巻いている。今作「ゆれる」では、そんな人間の心の奥行きを兄弟の葛藤を通じてとことんまで見せる。単純な解釈を許さない。事実がどうであったかによって、兄弟二人の選択がいかようにも解釈しうる。

吊り橋で事件は起きる。幼なじみの智恵子が転落死する。その瞬間、そばにいたのは気弱な兄の稔。稔は智恵子に好意を抱いていた。智恵子はその稔をいい人だけど、気味悪がるかのように遠ざけようとしていた。弟は一足先に吊り橋を渡り切っていた。事件の瞬間を見ていたのだろうか。この時の三人のポジションは、重要だ。早々に一人上京し、成功を収めていた猛は、吊り橋を超えた遠くにいて、智恵子は、自分も東京に行くと云い、そんな猛を追いかけ吊り橋を渡ろうとする。一方、田舎に縛られている稔は、吊り橋という難関を超えることができず、格好悪く智恵子にしがみついている。
裁判が始まる。猛は叔父に稔の弁護を依頼する。観客は、実際に稔が故意に突き落としたのか、事故だったのか知らされていない。ここからが今作の凄いところ。真実がどちらかによって、猛と稔の取る行動の動機がいかようにも解釈し得る。
もし、あの事件が事故で猛がそれを目撃していたら?猛が大金を積んで兄を守ろうとする好意は、純粋に兄弟愛から来るものだろう。最後の猛の証言は、いやしく変わり果てた兄に、自分の純粋な思いふみにじられて絶望したからか。或いは変わり果てた兄を元に戻す為には、これしかないと思ったのか。
第二のパターン。稔がもし故意に智恵子を突き落とし、猛がそれを目撃していたら?猛は、兄が犯罪者になってしまったことを承知で、兄を守ろうとしたことになる。なぜか?プライドの高い彼は、自分の身内、それも兄が犯罪者になることなど承服しがたいことだったのだろう。最後の証言は、そんな自分のみっともないプライドを見透かされていたから。猛取る行動は、見方によって利己的にも利他的にも見える。他にもいくつもの解釈の仕方があるだろう。人間の心などというものは、そもそも簡単に解釈可能ではないのだ。

多様な解釈を許容する奥行きある脚本、役者陣の素晴らしい演技、編集も素晴らしい。2006年の日本映画の最高傑作だ。

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