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映画レビュー「サラエボの花(GRBAVICA)」

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記事初出:2007年03月04日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「サラエボの花(GRBAVICA)」(2007、ボスニア・ヘルツェゴビナ)
監督:Jasmila Zbanic
脚本:Jasmila Zbanic
製作:Barbara Albert、Damir Ibrahimovich、Bruno Wagner
出演:ミリャナ・カラノビッチ(パパは出張中!、アンダーグラウンド、ライフ・イズ・ミラクル)、Luna Mijovic、Leon Lucev、Jasna Beri

2006ベルリン国際映画祭金熊賞受賞

公式サイト
http://www.coop99.at/grbavica_website/

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今作の主役、ミリャナ・カラノビッチが出演しているエミール・クストリッツァ監督の二作品です。サラエボと旧ユーゴの実情と歴史を知るのに、役立つ二本です。
   

ストーリーと映画情報
シングルマザーのEsmaは、12歳の娘のSaraと貧しい二人暮らし。Esmaは娘の修学旅行の費用を捻出するために、不釣り合いなナイトクラブで働き始める。父親が戦死したとの証明書を出せば、旅行費のディスカウントができるのに、Esmaはなぜか証明書を提出するのを頑なに拒む。Saraは、自分の父親がどのように死んでいったのか、Esmaに執拗に問いつめ続け、やがて母娘の間に亀裂が生じ始める。そして、Esmaは遂にSaraに出生に秘密打ち明ける・・・
ボスニアの新人監督Jasmila Zbanicによる、「サラエボの今」を描く母と娘のドラマ。クストリッツァ映画の常連、ミリャナ・カラノビッチが内に秘めた憎しみと愛情を的確に演じている。女流監督ならではの母と娘の関係を見つめる目線が素晴らしい。

旧ユーゴ圏の映画達
この映画はボスニア・ヘルツェゴビナの首都、サラエボを舞台とした作品ですが、サラエボで映画、と来ればまず思い浮かぶのはエミール・クストリッツァでしょう。後はダニス・タノヴィッチも有名ですね。クストリッツァの「アンダーグラウンド」は、僕の個人的な映画史の中で重要な作品の一つです。映画を見始めた初期のころ、映画といえばアメリカとしか頭になかった僕を、世界中にむけさせた作品が3つあります。「アンダーグラウンド」、「ユリシーズの瞳(テオ・アンゲロプロス監督)」、そして「ビフォア・ザ・レイン(ミルチョ・マンチェフスキー監督)」です。奇しくも3つとも旧ユーゴを舞台とした作品です。7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字により構成される1つの国」の言葉が示す通り、歴史的に複雑に構成されたこの国から生まれる映画作品に、何やら言葉で示すことのできない世界の複雑さ(アメリカ映画とは最も遠い)を感じ取ったのでしょう。
そんな旧ユーゴ諸国の一つボスニア・ヘルツェゴビナから、また一つ素晴らしい作品が生まれました。

見えない戦争の傷跡に苦しむ人々を描く
今作は、シングルマザーと、その反抗期に差し掛かる娘との葛藤を軸にmボスニアの紛争が人々に何をもたらしたのかを静かに語りかけます。町の風景などからは、すでに紛争の傷跡のようなものは見られない。しかし、確実にあの紛争は大きな爪痕を人々の間に残している。Esmaは紛争中、ある出来事に巻き込まれ、それが大きなトラウマとなっている。その事件はSaraの出生にも大きく関わっている。そのトラウマはEsmaに娘に対して複雑な感情を抱かせている。愛情、憎しみ、絶望・・・Saraもまた、父親のことをかたくなに隠そうとする母に対し、怒りを募らせていく。
ありふれた母娘の葛藤だが、つい十数年前に紛争の痛みがこの葛藤をより複雑にしている。

テクニカルな弱点は少なからずありますが、素晴らしい映画の本質は、やはり深く描き込まれる人間なのだということを再確認させてくれた、素晴らしい作品です。日本公開を切に望みます。