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映画レビュー「Wassup Rockers」

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記事初出:2006年07月25日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「Wassup Rockers(2006、アメリカ)
監督:ラリー・クラーク(Kids、Bully、アナザー・デイ・イン・パラダイス)
製作:Kevin Turen、ラリー・クラーク
出演:Jonathan Velasquez、Francisco Pedrasa、Milton Velasquez、Yunior Usualdo Panameno

公式サイト
http://www.wassuprockers.net/
ラリー・クラーク監督の傑作「Kids」とLA、ヴェニスの伝説のスケーター「Z-Boys」を描いた「ロード・オブ・ドッグタウン」です。↓
  


ストーリーと映画情報

LAのサウスセントラルに住む、パンクロックとスケートボードを愛するメキシカンティーンエイジャー達の過激な日常を描いた作品。
ある日、「いつものように」仲間の一人が殺されていた現場で祈りを捧げるメキシカンの子供達。その後、彼らは大好きなスケートボードをプレイしに、ビバリーヒルズへと向かう。そこで彼らは金持ちの白人の女子高生と出会い、彼女達のうちへ行くのだが、そこから事件に巻き込まれてしまう。
「Kids」のラリー・クラーク監督が実際に出会った少年達のエピソードを基に構成されたハードな青春物語。

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LAのメキシカン達
移民の国アメリカの中に於いても、ここLAの人口構成はかなり多人種によって形成されている。人口構成比率の中で最も多いのはヒスパニックで4割、残りは白人3割、黒人2割、アジア人を含むその他の人種が一割といったような具合だ。ヒスパニックの大部分は隣国メキシコからやってきた移民達で、ビザを持たない不法入国者も大勢いる。上の人口構成率はおそらく、合法的にLAに居住している人間だけをカウントしたものだろうから、実際にはもっと多いのだろう。アメリカのメディア発信地のLAにこれだけ多くのヒスパニックがいるにも関わらず、彼らがどういう生活を営んでいるのかについてはほとんど語られることがない(ハリウッド映画もアメリカのTVドラマも、登場人物はほとんど白人か黒人だ)。不法移民の彼らは実際、あまり多人種と接することが無い。
確かに、不法移民の2世、3世などもたくさんいる。いわゆる3Kとよばれるようなキツい仕事の現場には、たいてい彼らがいる。というより、そういう仕事のほとんどがメキシコ人達によって賄われていると云っていい。当然、賃金は非常に安く、治安の良い所には住めない彼らは常に危険と隣り合わせだ。

さて、今作品「Wassup Rockers」は、そんな彼らに初めてスポットライトを当てた作品である。僕自身もLAに住んでいながら、バイト先のキッチンでメキシコ人の大人達とは接する機会はあるのだが、なかなかメキシコ人ティーンエイジャーと接出会う機会は無いので、見慣れたLAの街の風景を随分新鮮な感覚を受けた。彼らは、hip-hopではなく、パンクロックを愛聴し、長髪をなびかせスケートボードを駆る。学校では、黒人連中にバカにされ、白人からはほとんど相手にされない。ストーリー中、ビバリーヒルズの白人の金持ちの女の子に逆ナンされるのだが、彼女たちにとってはつまみ食いでしかないだろう。ビバリーヒルズとサウスセントラルはバス二本乗り継げば行けるほど近いのだが、そこにある現実は、完全に断絶している。白人の女の子にメキシコ人の一人が、自分達の街と生活について長々を語るシーンがあるのだが、その話を女の子は外国の話を聞くかのように物珍しげに聞いている。今年のアカデミー賞を受賞した「クラッシュ」でも描かれいたが、本当にこのLAという街は、各人種が共存というよりは、不干渉、もしくは断絶することで成り立っている。「クラッシュ」では、かすかに交わることで理解の道が生まれるかもしれない、という希望を感じさせるが、現実は交わればこの作品が描くように悲劇が生まれることの方が多いのかもしれない。警官から逃げる途中、白人の民家に逃げ込み、少年の一人があっさり銃殺されてしまう。そして、その現実を目の当たりにした少年達は、自分達の街サウスセントラル(少年の一人はゲットーと読んでいる)でタフに生きるしかないことを知る。

映画自体の完成度は、いまいちですが、僕らの知らない現実を見せくれた点でこの作品には価値があると云えます。彼らメキシカンの置かれている状況は、アメリカの矛盾をある種象徴しているようなところもあります。より良い暮らしを求めてやってきた彼らが直面する過酷な生活。安い賃金の仕事しか得ることができない現実。そして多人種が共存して生きているというフィクション、もっともっと語られるべき存在であると思います。