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映画レビュー「潜水服は蝶の夢を見る」

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記事初出:2008年01月14日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「潜水服は蝶の夢を見る」(2007、フランス、アメリカ)
監督:ジュリアン・シュナーベル(バスキア、夜になるまえに)
脚本:ロナルド・ハーウッド(戦場のピアニスト)
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
製作:キャサリーン・ケネディ、ジョン・キリク
出演:マチュー・アマリック、エマニュエアル・セリエ、マリ=ジョゼ・クローズ

公式サイト

http://www.chou-no-yume.com/main.html

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2007カンヌ国際映画祭監督賞受賞

今作の原作「潜水服は蝶の夢を見る」です。

ストーリーと映画情報
フランス版ELLEの名編集長として名を馳せるジャン=ドミニク・ボビー。美しい妻と子供3人を持ち、社会的地位をある彼に42歳の時、突然脳梗塞が襲う。身体の自由を奪われ、顔が醜く歪み、動かせるのは左目の瞼のみ。そんな彼が、左目の瞬きのみで自伝を書き上げる。
実在した伊達男、ジャン=ドミニク・ボビーのベストセラー自伝、「潜水服は蝶の夢を見る」を希代のアーティスト、ジュリアン・シュナーベルが映画化した驚異の感動作。

豊かな人生とは
身体の一部に障害を持った人物を主人公とした映画はたくさんありますが、身体が一切動かず、言葉も発することが出来ないほどの障害を持った人物を主人公に据えた作品は初めて見ました。今作の主人公、ジャン=ドミニクは脳梗塞に倒れ、動かすことができるのは、左目の瞼のみ。しかも、この作品はそんな男の一人称で語られる。人はコミュニケーションによって喜びを得る動物だ。言葉で会話し、泣いたり笑ったりして感情表現をして関係を築き社会を生きる。「健全」な人間には、もしそれらの表現機能を一切奪われたとしたら、そこには絶望しかないと思うだろう。社会的地位や名声は、時に人を愚鈍にする。しかし、人間の想像力は実はもっと力強いものだ。社会を「健全」に生きる人は、そのことを忘れがちだ。そして、それを忘れてしまうことは、実は「不幸」であるかもしれない。豊かな生活や社会的名声が人を幸せにするとは限らない。時に不幸な体験が、人にもっと豊かな感性を与えてくれることもあるのではないか。

主人公、ジャン=ドミニクは、フランスの有名ファッション雑誌の名編集長。社会的地位もあり、仕事も順調。美しい妻と子供を持ち、何不自由ない生活。誰もが羨むような社会的ポジションを得た男。しかし、なぜだろう。身体も動かせず、表情も変えれず、言葉も発することのできない彼の方が、病気に襲われる以前の彼よりも豊かに生きているように見えるのは。フランスのファッション業界という地球上で最もな華やかな舞台で、美しいモデルと美しい服に囲まれ躍動する彼よりも、車椅子から離れることもできず、ヨダレを垂れ流す彼の方が輝いて見えるのは。瞬きすることでしか表現不可能な彼は、病気になる以前よりも大きな仕事をやってのけた。溢れんばかりの想像力に満ちた自伝を瞬きのみで書き上げた。愛する妻と子供を抱きしめることができなくても愛を感じることを出来ることを証明した。そして彼は、例え全身が不自由でも人間はその想像力によってどこまでも豊かになれることを証明してみせた。

地位や名声に溺れ、豊かな想像力を忘れた時、人は死ぬのだ。ジャン=ドミニクは幸運にも脳梗塞によって甦ることができた。重い潜水服をものともせず飛び回る蝶のような想像力と共に。