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映画レビュー「ONCE ダブリンの街角で」

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記事初出:2008年01月15日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「ONCE ダブリンの街角で」(2007、アイルランド)
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
製作:マルチナ・ニーランド
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ、ヒュー・ウォルシュ

公式サイト
http://oncethemovie.jp/

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2007サンダンス映画祭ワールドシネマ部門観客賞受賞

今作のサウンドトラックです。必聴!
 

ストーリーと映画情報
ダブリンのストリートでオンボロギターで弾き語る男に女は10セントのチップを差し出す。女の執拗な質問攻めに多少ウンザリしつつも、男は女の掃除機の修理の約束をする。途中、女の行きつけの楽器屋で彼女のピアノ演奏に心撃たれた男は、一緒に自分の作った曲を演奏しないかと持ちかける。そのセッションを境に二人の冷えた心が次第に溶解し始める。
「2007年一番の音楽映画」と激賞された、心温まる不器用な二人のラブストーリー

男は不器用、女も不器用、映画も不器用
とても下手くそに作られた映画だ。しかし、やたらと心地良い。結論からいうと、とても良い映画だ。主人公のグレン・ハンサードは、お世辞にも芝居が上手いとは云えないし、照明も統一感が無い。脚本も練り上げられているとは云い難い。何となく二人が出会って、何となく仲良くなり、何となく別れてしまう。にもかかわらず、この映画は僕の目を釘付けにした。いや、耳を釘付けにしたのかもしれない。もしかしたら、五感すべてを釘付けにしていたかもしれない。とにかく、見ている間異様に心地良いのだ。まるで楽しい夢を見ているようだった。

金の無いストリートミュージシャンである男。昼間は掃除機等の日曜家電の修理で生計を立てている。彼には、忘れられない女性がいた。彼は、その過去の女性にいつまでも未練を引きずっている。女はストリートでの花売りと家政婦の仕事で生計を立てている。彼女には幼い娘と英語のしゃべれない母がいる。彼女の夫は祖国チェコにいる。移民という立場で女手一つで母と娘を食わしていかなくてはならない生活に彼女は疲れていた。二人の冷えた心を救ってくれるものは、音楽だった。二人で一つの曲を作り始める。そして次第に打ち解け始めるが、男は夢のためロンドンに旅立つ。女は男の誘いを断る。寂しくて、暖めて欲しいのに、近づけない二人。関係が壊れることを恐れているのだろう。互いの心の深くまで踏み込み切れずに二人は別れの時を迎えてしまう。
凡庸なストーリーだ。しかし、音楽は凡庸ではない。全編を彩る音楽が、この映画全体を、映画館全体をやさしい雰囲気で包む。二人の奏でる音楽は、物語よりも、台詞やカメラワークや照明よりも雄弁に二人の気持ちを語る。監督自身がミュージシャン出身であるのが、大きいだろう。普通の映画監督は、全てを音楽に託して映画を作ろう、などと思うことができないのだ。

全編、愛が溢れている。音楽への愛と映画への愛。制作者達は、この映画に100%以上の愛情を注ぎ込んで作ったに違いない。それだけの愛情を注げる対象を作る事ができたのは一生の誇りだろう。