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映画レビュー「花井さちこの華麗な生涯」

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記事初出:2008年07月09日 seesaaブログからの引っ越し

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基本情報
「花井さちこの華麗な生涯」(2004、日本)
監督:女池充(ビタースイート)
脚本:中野貴雄(花のおんな相撲、ヅラ刑事)
企画:朝倉大介
出演:黒田エミ、伊藤猛、螢雪次朗

本作のDVDです。
  

ストーリーと映画情報
イメクラ嬢のさちこは、ある日流れ弾を額にくらうが、なぜか死なずにすんだ。しかし、その日を境にさちこは自分が天才的な頭脳を持ってしまったことに気づく。一方、さちこに弾丸を放った男、キムは、そのゴタゴタでさちこの荷物に紛れ込んだ「ブッシュ大統領の指」を取り戻すべく、さちこの家に乗り込むが。。。。
国際政治問題、哲学的考察をふんだんに盛り込んだ、奇想天外なセックスコメディ。

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政治と性
ピンク映画が隆盛を極めた60年代、その旗ふり役であった若松プロが産んだ一連の作品は、一般映画では扱いきれないような、政治的タブーを主題としたものだった。ピンク映画においては、総理大臣を暗殺しても、乱交しても、天皇暗殺を目論んでもOKだった。当時のピンク映画の存在意義は性的表現のみならず、あらゆるタブーを犯すものであったといってよい。しかし、21世紀のピンク映画には、そうした過激な意思を持つ作家はほとんどいなくなった。作家の個性が存分に発揮された作品こそあれど、社会に向けて強いメッセージを発する作品は60年代に比べればめっきり減った。まじめに政治を語っても真剣に聞いてくれる人は少ないからだ。今日、政治問題や哲学を語るには、「一工夫」しなくてはいけない。この映画は、それをまさに実践している。

セックスという実践性に勝るものはない(笑)
物語は、銃弾が脳みそのめり込んだために天才的頭脳を持ってしまったイメクラ嬢を中心に展開する。イメクラ嬢、さちこは哲学や国際政治に思いを馳せるようになり、ある大学教授に形而上学理論よりも実践性だと説き、セックスをする(笑)そして、偶然手に入れたブッシュ大統領の指のレプリカに犯されたりもする。この指、TV画面に写っているブッシュの意思で思い通りにさちこを犯せるのだ(笑)そしてこの指は、世界を滅ぼす力のある兵器を作動装置で、某半島の国が狙っている。この指さえあれば、実際にその兵器を開発、所有する必要はなくなるのだ。現実世界でも、しきりに某国はそれを所有していると喧伝されているが、真偽のほどはこの映画並に疑わしい(笑)国際情勢において疑わしいのは、それだけではない。アメリカがイランに向けている核疑惑も同様だ。政治家は、報道すらプロパガンダとして周到に利用しているのだ。また、大学教授の息子(軍事オタク)の家庭教師を請け負ったさちこは、彼の説く軍事的陰謀論に対し、日本も独自の防衛政策を打ち出す必要があるとの考えに達するが、そうした机上の理論展開を上回るものとして、やはり彼に対してもセックスを提供する(笑)

複雑な国際問題を実践的セックスによってパロディとする手法は非常に斬新だ。この映画はくだらないといえば、くだらない。しかし、そのくだらなさによって、たとえばブッシュ政権がしかけるようなプロパガンダのくだらなさを描いている。この映画はデマゴーグのように深みに欠けるが、その浅はかさが返って国際情勢を批評的に見せるのだ。その意味でこの映画は逆説的にとても深みのある映画とも云える。